一般社団法人 湘南くらしのUD商品研究室
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2019年6月4日
 
YKK × sitateru「ユニバーサルファッションセミナー」
ユニバーサルファッションの認知度向上と実用化のために

主任研究員 柳原美紗子

 "ユニバーサルファッション"とは"ユニバーサルデザイン(UD)"を取り入れたファッションのことです。大手アパレルも今、取り組みつつあるといったところでしょう。
 先般4月9日、この"ユニバーサルファッション"の認知度向上のためのイベント、「ユニバーサルファッションセミナー~これからのファッションを考える~」が、朝日新聞社メディアラボ渋谷にて開催されました。これはYKK ×sitateru、つまりユニバーサルファッション向けの新ファスナーを開発したYKKと、衣服生産のプロセスをフルサポートする新流通プラットフォームのsitateru (シタテル)が共催し実現したもので、関係者の熱意もあり、深く考えさせられる内容となりました。

 第一部は、障がい・難病の女性のためのフリーペーパー「Co-Co Life☆女子部」編集部エディター守山菜穂子さんによる講演で、テーマは「アパレル企業が今すぐにできるユニバーサルデザインの取り入れ方」です。
 まずは「Co-Co Life☆女子部」の活動やUDに関する解説から。「障がいは個人にあるのではなく社会にある」との考え方が基本と強調。障がいのある人への社会的障壁を取り除くことこそ社会の責務であり、だからこそUDが必要といいます。UDには建築設備や道具などハード面もあります。しかしながらより重要なのはソフトの面であるそう。ソフトというのは人への対応で、気配りや気づきといったことです。「何かお困りではありませんか」とか「お手伝いしましょうか」という声かけは非常に大事といいます。私も心しようと思ったことでした。
 次にファッションとしてできることは、少しでも多くの人が着やすいアイテムをデザインすることといいます。たとえばマグネットボタンや面ファスナーの使用、袖ボタンをゴム糸でかがる、ファスナーの引手を巨大なものにする、脱ぎ履きしやすいスリッポン、ファスナーをやめて被りにするなど。とはいえ"あらゆる人が着やすい服"というのは存在しないときっぱり。人それぞれに体型や機能が異なっていること、つまり多様性があることを理解することが不可欠といいます。
 最後にアパレル企業には今すぐにでも、障がいや難病のモデルを起用する、座談会やインタビューなどを通じてモノづくりに心のバリアフリーを取り入れる、車いすが通れるようなUDに配慮した店舗設計を行うなどをしていただきたいのこと。プロダクト以上に心のUDに配慮すべきと断言されていたことが印象的でした。

 第二部は、ユニバーサルファッション向けの商品説明会です。
 最初にYKKジャパンの岩田知久氏が、ファスナー商品を紹介。5月発売予定という最新のファスナー、「クリック・トラック click-TRAK?」は、開部パーツをボタンのように重ね合わせてスナップするだけで簡単に操作できるファスナーで、Co-Co Life☆女子部と共同開発したもの。また左右に引っ張ると噛み合わせが外れる緊急解放機能を備えた「クリック・フリーQuickFree?)」や、閉じる際に上からも横からも挿入できるビスロンの「イージー・トラックez-TRAK?」など、様々なファスナーを解説され、実物サンプルを回覧していただきました。
 次にYKKジャパンの山本萌氏による樹脂製品のバックルの説明があり、さすが世界のYKK、多種多様なものが開発され製品化されていることに驚かされました。

 第三部は、トークセッションです。登場したのは、Co-Co Life☆タレント部所属の車椅子モデルでタレントの梅津絵里さんと、YKKファスニング事業本部の嶋野雄介さん、sitateruガーメンツプランナー冨山雄輔さん。
 梅津さんは、全身性エリテマトーデスを発症して、車椅子生活になったといいます。「車椅子なので腕を頻繁に使います。袖がタイヤに当たると汚れてしまい、白い長袖を避けています。袖がだぶだぶなのも困ります。デニムは好きなのですが、股上が浅いと後ろから背中が丸見えになります。トレンドの服選びは難しいのです」などと悩みを打ち明けていました。
 またファスナーについて問われて、「手に麻痺があるので苦手です。とくにコンシールファスナーはやっかい、と思っています」。これを聞いた嶋野さんは「ファスナーがそんな風に否定的に思われているとは考えてなかったです。当事者の方々の意見を聞くことが大切と改めて思いました」。
 冨山さんは「多様化に対応し、できる限り一人ひとりにフィットするものをつくるようにチャレンジしていきたい。身体に服を合わせる時代になっていくと感じています」などと語っていました。
 障がいのある方は、これまでどちらかというと迷惑をかけないようにひっそりと生きてきたといいます。でも障がいがあるからこそおしゃれして目立つことが出来たら、世の中はきっともっと明るくなるに違いありません。誰もがファッションをあきらめない社会が来るように、私も少しでも貢献できたらと思っています。

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